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これからの物流施設建設プロジェクトの特徴とポイント

コロナ禍におけるeコマース市場拡大の加速を背景に、物流施設に関わる投資も拡大しています。日本市場は、世界的にまだまだ拡大の余地がある市場であり、今後も物流施設への投資は続くものと考えられます。
 
物流施設は不動産投資としての側面が強い施設です。テナントを誘致し、その賃料で建設にかかったイニシャルコストを回収する仕組みなので、賃貸床面積の設定や建設にかかわるイニシャルコストはリーシングと密接に関り、建設費そのものが事業性そのものに大きな影響を与えます。
 
その為、工事契約をはじめ、設計段階や施工段階における設計変更を含めたコストが妥当であることを投資家へ責任をもって説明することが非常に重要になります。特に外資系プロジェクトでは、第三者によるコスト評価が必須となっているケースが多く、設計者、施工者に加え、建設コンサルティング会社がプロジェクトマネジメントやコンストラクションマネジメント、コストマネジメントといった役割を担う形で参画するプロジェクトが多くなっています。
 
そこで、今回は物流施設の建設プロジェクトにおける特徴やポイントについて、物流施設建設に関わる課題から、建築費・工期、SDGsやAI/IoTまで、下記の観点より具体的に紹介していきます。
 
 
1.  物流施設建設の課題とポイント
2.  物流施設建設における企画・発注戦略スキーム
3.  物流施設建設の標準的な建築費水準と工期について
4.  これからの物流施設建設に向けて(SDGs/AI/IoT)


1.  物流施設建設の課題とポイント

近年、物流施設建設プロジェクトにおける課題は、温暖化の加速、資材価格の高騰、働き手不足、SDGsなど周囲を取り巻く環境の変化によって、転換期にあります。ここでは、これら近年のプロジェクトにおける具体的な課題を例に取って紹介します。
 
1) 設計上の課題・対応
まず、物流施設に入居するテナントのニーズに対応できる設計にすることが挙げられます。これは、テナント側の要件として、リーシング向上に寄与する内容をどこまで設計に盛り込めるかに関して、ライフサイクルコストをふまえた上での仕様検討が重要なポイントとなっています。
 
例えば、温暖化の影響で空調が必須になってきています。これまで空調機能は、基本的にはテナント工事とされていましたが、物流施設オーナー工事側で標準装備にするべきかの検討も計画初期の段階で上がるようになっています。
 
また、大型物流施設は近年続いている火災などの事故を背景に、消防からの要望に対する対応も検討する必要があります。基本的にテナント要件や消防対応はコスト増加へ影響するため、計画段階で可能な限り洗い出し、設計施工者又は施工者を決定するまでに方針を検討することが極めて重要になってきています。
 
2) 鉄骨を主とした様々な建設資材価格の著しい上昇への対応
昨今の大きな課題は、コロナやウクライナ情勢といった世界的な情勢に伴う急激な物価上昇による物価変動への対応です。物流施設に限らず、どのプロジェクトにおいても大きな話題ですが、物流施設の場合は、賃料等含め事業そのものが成り立つかが問われます。
 
事業予算を立案するには投資回収も踏まえた上で承認が降りているため、予算内に収まらない場合の対応はとてもシビアなものとなります。その為、企画・計画段階において、工期を想定した予算の検討に加え、工事契約後の設計変更や著しい物価上昇の対応に充当できる予備費についても十分な検討を重ねることが非常に重要なポイントとなります。
 
また、近年の物価上昇に関しては、工事契約後の著しい物価上昇の影響によるコスト増加の請求について、協議の上一部認めるプロジェクトも出てきています。その為、著しい物価変動に関する取り決めとして、例えば、具体的に契約後の請求を認める範囲や条件等について、発注者と施工者の双方が事前に合意し契約に盛り込むことが、今後ますます重要になるでしょう。
 
3) 建設資材納期の長期化
工場で加工が必要となる鉄骨や既製杭などは、現場で着工する数ヵ月前に発注するケースがほとんどです。一方、昨今のコロナ等の影響で、これら鉄骨や杭の納期は従来の納期から大幅に期間を要する現状にあります。その為、施工者が確定次第、各資材の調達スケジュールを見える化し、適切な時期に発注承認を行った上で手配することが求められます。
 
近年、工事の発注方式が多様化する中でも、物流施設の建設プロジェクトは、ゼネコンに設計と施工を一括で発注することが多い施設です。その為、これら鉄骨や杭について、発注者側の承認に必要な期間等を含めた上で、適切に先行発注を行ってもらえる様、ゼネコンと共に進めていくことが非常に重要です。
 
4) 2024年に本格化する「働き方改革」
建設市場は、2011年から災害復興や東京オリンピックに関連する建設需要の増加により、人手不足の状況が続いています。昨今落ち着いてきているものの、九州における超大型半導体工場建設、2025年開催の大阪万博、首都圏の都市開発など大型プロジェクトは多く、今後、技術者や現場の職人を確保するには様々なハードルが立ちはだかります。
 
その中でも、2024年4月より時間外労働上限規制が適用される建設業の働き方改革は関係者の頭を悩ませそうです。具体的に、建設業では、これまで現場において4週間で4日閉所する4週4閉所を基本としてきましたが、これが4週間で8日閉所する4週8閉所に移行します。その為、建設工期は、これまで標準とされてきた工期から延びることになります。
 
5) SDGsやカーボンニュートラルへの対応
これまで、大手ディベロッパーによる物流施設は何らかの環境認証を取得していることが一般的でした。しかしながら、近年、環境認証の取得は当たり前となってきています。CASBEE、ZEB、LEEDなどの様々な環境認証がありますが、1つではなく複数、また高ランクの承認取得がスタンダードになってきています。
 
これらの環境認証は投資家へのアピールポイントにも繋がる一方、高ランクの環境認証の取得は、建物の性能自体を上げる必要があり、イニシャルコスト増へと直結するため、これら環境評価の取得に関する検討は取得によるコストと併せて検討する必要があります。
 
また、物流施設は屋根に太陽光発電を設置するケースが多いのですが、カーボンニュートラルの観点から、電力会社選定にあたってグリーンエネルギーを活用しているか、また、今後は施工段階におけるCO2削減対策としてどのような取り組みを行っているかなどの点も、外部からの評価に繋がっていきます。
 
EV車についても、EV車用の充電設備は将来対応が可能なように整備する、または、計画当初より導入済みのプロジェクトも出てきています。物流施設におけるEV車への対応も、今後は必須になるものと思われます。
 
6) テナント側の働き手の確保に繋がる施設づくり
これまでの物流施設は倉庫といった、ただ単にモノを保管し配送するだけの機能を持つのみでした。しかしながら、近年の物流施設において、とりわけ大型物流施設では、カフェテリア、無人販売機、コンビニ、会議室、託児所などその施設で働く人の環境を配慮した施設計画が数多くあります。
 
また、地方創生の一環として、物流施設建設に伴って雇用を生み出すと共に、周辺住民にとって魅力的な職場となるよう、地方自治体と協力しながら「まちづくり」としてとらえたGLP流山のような物流施設も出てきています。これらは、テナント誘致にも魅力的であり、賃料とリーシングの向上に寄与することが期待されています。

 
2.  物流施設建設における企画・発注戦略スキーム
 
前述したように、物流施設のプロジェクトは、基本設計段階または実施設計段階から設計施工一括発注によるゼネコンへの発注が主流となっています。これは、施設の特性上、工期やコストをできるだけ早期に把握し決定することが、事業性に影響を及ぼすためです。
 
また、設計施工一括発注であれば、資材納期の長期化や労務確保といった調整について、設計段階から行うことができ、工期遵守に繋がるといったメリットもあります。
 
設計施工者選定方法については、入札や見積合せなど3社以上の競争による選定や、土地取得の時点からゼネコンと一緒に進めて随意契約(特命)とするケースなど様々です。
 
いずれの場合においても、仕様書などの要求条件と契約条件の合意は、選定段階で重要となります。特に、発注者と施工者間で、契約金額の中には、何が含まれていて、何が含まれていないのかを明確化する確認作業は、契約後のコスト増減に影響を与えるので重要になります。
 
また、物流施設は、テナント賃料とのバランスにより、投資の観点から事業予算が決まることが多い施設であるため、設計変更によるコストの増減や、近年のような著しい物価変動は、事業継続に大きな影響を与えるだけでなく、事業の見直しや中断といった検討にも派生しかねません。
 
入札の場合は、参加業者の受注意欲を高めてベストプライスを提示して貰えるように、適切な入札図書の用意と競争環境の構築に向け、戦略的かつ用意周到に準備を進めることがポイントになります。
 
一方、ゼネコンによる土地持ち込み、土地紹介や土地の入札をゼネコンと共に行う場合など、施工者が特命となる場合では、入札によるベストプライスでの調達ができないため、コスト増加リスクが伴います。
 
その為、プロジェクトの初期段階で仕様、工期、コストについての確認を行うと共に、それらについて可能な限り明確に共通認識化することが、設計および施工契約を見据えた特命契約で非常に重要になります。
 
3.  物流施設建設の標準的な建築費水準と工期について
 
マルチテナントのドライ倉庫の場合の建築費は、昔は概ね坪あたり30万程度の水準でしたが、5年程前におよそ坪あたり35万から40万程度の水準まで上昇しました。さらに、近年の資材価格高騰の影響もあり、現在は坪あたり45万~50万程度まで上昇しており、規模や立地条件によっては、坪あたり50万を超える案件も出てきています。
 
物流施設の主要な構造としては鉄骨造が多いですが、昨今は建築コストとのバランスやテナント側の使い勝手の観点から、RC-S造、SRC造、PC造を主要構造とするプロジェクトも見られるようになっています。また、建築費は上昇するものの、免震対応などのBCP対応を、リーシングや投資面から必須のスペックとするディベロッパーも増えてきています。
 
なお、国内では2025年に大阪万博も控えており、大阪万博関連開発を含め、建設需要の増加が見込まれていますが、その影響で人手不足が加速し、建設市場は強い売り手市場へ移行することで、今後も現在の建築費の水準からさらに上昇する可能性があることについても触れておきます。
 
また、工期については、例えば、3万㎡程度の場合、本体工事といわれるテナント工事を含まない工期は概ね13ヵ月~15ヵ月程度が目安となっています。しかしながら、自動倉庫や太陽光パネルを設置する場合は、特高が必要となることも多く、その場合、受電までに年単位の期間が必要なる可能性もあるため、計画の初期段階で特高の受電期間も確認することが重要です。
 
 
4.  これからの物流施設建設に向けて(SDGs/AI/IoT)
 
冒頭に述べたネットショッピングによる物流需要の普及に加え、配送費高騰、ドライバーの働き方改革、人員不足など様々な課題を解決するために、今後、物流施設におけるIoTやAIの導入は加速度的に進むと考えられます。
 
2022年3月にオープンしたアマゾンによるロボット倉庫のように、ソフトの自動化を図ることで人手不足や省力化を目指して、例えば、トラックの自動運転、ドローンによる配送、荷役作業をロボットで自動化するなど、自動倉庫や機械(ロボット)の導入など、ソフト面の対応が必須となる物流施設の開発が主流となる日も近いのではないかと思われます。
 
以上のように、今回は物流施設の建設プロジェクトにおける特徴やポイントについて、物流施設建設に関わる課題から建築費・工期、SDGsやAI/IoTまで、具体的に紹介しました。

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