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建築費の変動メカニズムと今後の動向について

昨今の国際情勢の混乱に伴い、消費者物価指数の上昇率が1年間で約2.5%上昇し、今後もその上昇傾向は横ばい、もしくはさらなる上昇が予想されています。全般的な物価上昇の背景には、新型コロナウィルスの感染拡大に伴うコンテナ船の運賃上昇や、対ロシア制裁が長期化によるエネルギー価格や原材料価格の高騰が挙げられますが、建築費も同様に昨今の物価上昇に影響を受けています。そこで、本レポートでは、以下の点について解説していきます。
 
1.  建築費の変動メカニズムについて
2.  建築費の今後の動向について
 
1.  建築費の変動メカニズムについて
 
「建築費」とは、特定の建築工事における発注者と請負業者(建設会社建設会社)との間で取り決められる請負契約価格のことをいい、建築工事費などとも呼ばれます。「建築費」の上昇や下落といった変動に影響を与える主要な要因として、大きくは以下の5つを挙げることができます。
 
1) 工事の内容
2) 市場の状況
3) 建設会社建設会社の能力と経験
4) 発注・調達の方式や契約の条件
5) その他
 
1) 工事の内容
まず、工事の内容については、設計図・仕様書の内容や、敷地条件による「建築費」の変動が挙げられる。設計図・仕様書の内容については、新築なのか改修、増築なのかなどの工事のタイプ、住宅やオフィス、ホテル、商業施設なのかなどの建築物の用途、その他規模や構造、意匠や形状などによっても左右される。
 
また敷地条件については、東京や大阪といった地域、敷地の形状、地盤状況、周辺環境(郊外か市街地か、資材置き場や工事ルートの確保など)が影響する。つまり、同じ規模の建物であっても、形状がシンプルで、敷地条件等に大きな課題がない場合と形状が複雑で難易度が高く、敷地の制約条件など課題が多い場合とでは、後者における「建築費」の方が高値となります。
 
2) 市場の状況
次に、市場の状況については、建設市場の需給状況と、資材価格・労務費の2つが挙げられます。建設市場の需給状況は、例えば、需要が供給可能な工事量を大幅に上回った場合は、建設業者の抱える工事量が増えて「売り手市場」となり、建設会社建設会社間で受注競争が行われない為、建築費は上昇する傾向にある一方、供給過多の場合は、建設業者の抱える工事量が減り「買い手市場」となって、建設会社建設会社間で新規案件の獲得に向けた受注競争が行われる為、「建築費」は下落する傾向にあります。
資材価格・労務費の状況については、例えば、資材価格や労務単価の水準が急激に高騰、または長期的な上昇傾向にある場合は、建設会社建設会社は工期内での物価上昇を請負リスクとして金額に盛り込む為、「建築費」は、大きく上昇する傾向にあります。
 
3) 建設会社建設会社の能力と経験
また、建設会社建設会社の能力と経験については、例えば、「施工能力」や「類似工事の経験」が十分でない建設会社建設会社は、工事を実施する上で想定する「技術的な課題」「地域特有の問題」「不確定な要素」が多く発生し、それらが工事を請負うリスクとして盛り込まれる為、「建築費」は高くなる傾向にあります。
 
4) 発注・調達の方式や契約の条件
発注・調達の方式や契約の条件発注・調達の方式や契約の条件については、建設会社建設会社の選定方法や工事の発注方式、契約上の取り決めなどが要因として挙げられます。例えば、建設会社選定方法では、特定の建設会社建設会社1社のみを選定してから見積を受領する「特命方式」は、価格競争が無い為、数社から見積を受領し建設会社を選定する「入札方式」と比べて「建築費」が高くなる傾向となります、建設会社。続いて工事の発注方式は、プロジェクトの目的や状況に応じて総合的に最適な発注方法が選択されますが、採用された方式によって「建築費」へ与える影響が異なります。そして、契約上の取り決めでは、例えば、契約上の取り決めが、建設会社建設会社にとって不利な条件やリスクとなる場合、これらは金額として「建築費」に盛り込まれる為、影響度の大小はあるものの「建築費」が高くなる方向に影響を与えることになります。
 
5) その他外部要因など
その他の要因としては、発注者と建設会社建設会社の関係性や、設計図や仕様書の完成度、そしてプロジェクトの注目度などが挙げられます。例えば、発注者と建設会社建設会社の関係性については、「新規顧客」の場合は、「常連顧客」と異なり、求められる品質レベルやクレーム発生のポイントなど顧客の特性や要求水準等が不透明である為、「建築費」が高くなる場合も、また、設計図や仕様書の完成度については、「設計図や仕様書の完成度」が低い場合は、建設会社建設会社側で設計内容を想定して見込み金額として安全側に盛り込む為「建築費」は高くなる傾向となります。プロジェクトの注目度については、例えば、町のシンボルとなるような建物では、建設会社建設会社はプロモーションや広告効果などの理由から、利益を度外視してでも受注を試みるケースもあるのです。
 
このように、前述した5つの要因が複雑に絡み合いながら建築費は変動することになります。
 
2.  建築費の今後の動向について
 
まず、全国における建築費の水準を見てみると、2012年から2021年までに約3割も上昇しており、建築費は既に高騰している状況にあります。しかしながら、今後、中長期的に、材料価格や労務単価は上昇し、売り手市場が強まることで、建築費の水準はさらに高騰するものと考えられます。以下の観点より解説していきます。
 
1) 主要建設資材の高騰
2) 労務単価のさらなる上昇
3) 今後、建設会社はコスト増を価格へ転嫁
4) 売り手市場が加速へ
 
1) 主要建設資材の高騰
主要な建設資材である木材と鋼材(鉄筋や鉄骨)は、2020年夏頃から上昇し、2022年現在も高騰しています。その為、建設資材物価は上昇傾向で推移しています。また、世界的なインフレと円安が影響し、これら主要資材の価格は高止まりが予想されるに加え、国内では多くの建材メーカーや機器メーカーによる値上げが今秋より実施されることになります。これらを踏まえると、建設資材物価は、今後、中長期的にさらに上昇していくものと考えられます。
 
2) 労務単価の上昇
令和4年3月から適用する公共工事設計労務単価について(国交省)によると、建設業における労務単価は全国全職種平均値で2012年度から2022年度までの10年間で6割以上も上昇しています。これは、大きくは建設業における技能労働者数が2011年より不足状況にあることが起因しています。
 
建設業では技能労働者数がピークであった1997年の455万から年々減少しており、2021年では309万まで減少しています。また、建設産業の現状と課題(国交省)によると、技能労働者数は2025年度に286万人まで減少すると試算されており、今後、人手不足の状況が悪化することが予想されています。
 
さらに建設業では、2024年より働き方改革の一般則が適用され、これまでの4週4閉所(現場を4週間で4日閉所すること)から4週8閉所(現場を4週間で8日閉所すること)となるため、これまでの標準的な工期が2割程度延びることになり、益々人手不足の状況が加速する方向に影響を与えると考えられます。
 
このように、建設業の人手不足の状況が益々悪化し、技能労働者の賃金が引き上げられることで、労務単価の水準がさらに上昇していくと考えられます。
 
3) 今後、建設会社はコスト増を価格へ転嫁
一般に、建築費は建築コスト(材料費+労務費)に、建設会社の利益等と消費税を加え構成されています。その為、建築コストが上昇すると、建築費の水準も上昇しそうなものの、建築費は建築コストが上昇するほどに上昇していないのが現状です。
 
これは、資材価格の高騰と労務単価の上昇によるコスト増加分を、建設会社が自らの経費や利益を削ることで吸収している為です。事実、上場している建設会社の多くで、2022年3月期における営業利益率の水準が2021年3月期の水準から下落しています。
 
建築コスト増加分を建設会社が自社の経費や利益を削ることで吸収し続けるのにも限界がある為、今後は、コスト増加分が建築費に転嫁されることで、建築費の水準は現在の水準からさらに上昇していくと考えられます。
 
4) 売り手市場が加速へ
前述した人手不足の状況が悪化する点を踏まえると、今後、中長期的に供給可能な工事の量は減少することで、建設需要と供給可能な工事量とのギャップが広がり、売り手市場の状況が益々加速すると考えられます。一般に売り手市場の状況では、建設会社が高い利益率を確保出来る案件を選別して受注することが可能であるため、建築費の水準は高くなる傾向にあり、中長期的に建築費の水準が上昇していく可能性が高いと考えられます。
 
以上を踏まえ、今後、中長期的に、資材価格や労務単価といった建築コストの増加が見込まれるに加え、売り手市場が加速して建設会社が十分な利益を確保することで、既に高騰している建築費の水準は超高騰期を迎えると考えられます。
 
以上のように、今回は、建築費の変動メカニズムと今後の動向について解説しました。次回は、今回取り上げた建築費の超高騰を回避する具体的な方策について紹介したいと思います。

後編『建築費の超高騰期をどう切り抜けるのか―具体的な工夫と手法―』

参考
建築費が超高騰時代へ突入すると見込まれる具体的な理由とは|2022年版(アーキブック)
「建築費」に影響を与える要因とは(アーキブック)
 
 

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