REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
国のパイロットプロジェクトになった矢作川・豊川カーボンニュートラルプロジェクト
8月28日、愛知県の大村秀章知事とともに、総理大臣官邸で岸田総理にお目にかかる機会がありました。7月8日、愛知県が推進している矢作川・豊川カーボンニュートラルプロジェクトに、視察に来ていただいたことに御礼を申し上げるための表敬訪問です。
2021年11月の日経ビジネスオンライン「激化する豪雨災害 治水、水道、エネルギーの三位一体で克服」で書いたように、愛知県は県内を流れる矢作川や豊川の流域をモデルに、治水・利水の見直しや森林保全、水道事業の効率化、再生可能エネルギーの活用などを通した流域全体のカーボンニュートラルの実現を目指しています。その後の動きについてはLinkedInでも触れてきました(「CO2削減の切り札、愛知発・流域カーボンニュートラルとは」)。
流域には、すべての起点となる水源林に始まり、発電や治水のためのダム、上下水道や工業用水、農業用水、下水処理など、上流から下流までさまざまな段階があります。ところが、管理する役所は分野ごとに分かれており、それぞれが個別に動いています。そこで、各省庁や民間が連携し、流域全体でカーボンニュートラルを目指すというプロジェクトを立ち上げたのです。
事実、矢作川流域一つをとっても、水道施設や下水施設は老朽化が進んでおり、省エネ余地が多く残っています。また、宅地化に応じて浄水場を整備したため、浄水場からポンプアップで上水を送っているケースも少なくありません。そのために莫大な電力を消費しており、浄水場などの水道施設を最適化すれば、消費電力は大きく引き下げることができます。
流域カーボンニュートラルによって削減可能なCO2量
こうしたCO2の削減のほかに、既存のダムを活用した創エネや関連施設のデジタル化も流域カーボンニュートラルの重要な視点です。
詳しい施策については前回の記事をご覧いただければと思いますが、矢作川・豊川流域全体の脱炭素化を進めることで、愛知県の関連施設が年間に生み出しているCO2排出量の半分以上を削減できる可能性があります(森林によるCO2吸収効果を含む)。
これはとてつもない量です。仮に全国に109ある一級河川で流域カーボンニュートラルを進めれば、2050年のカーボンニュートラルという目標に大きく寄与することは間違いありません。
岸田首相が愛知県に視察に来たのも、それが目的です。現に、岸田政権は矢作川・豊川カーボンニュートラルプロジェクトを水循環基本法のパイロットプロジェクトと位置付け、全国の一級河川で流域カーボンニュートラルを目指すという方針を打ち出しました。岸田首相は総裁選への不出馬を決めましたが、次の政権でも、流域カーボンニュートラルは重要なテーマになると思います。
流域カーボンニュートラルには既存ダムに設置されている水力発電の増強や新たな小水力発電、遊水池での太陽光発電、下水汚泥を活用した水素製造、水道施設再編のよる省エネ、上下水の一体管理をはじめとする流域マネジメントなど多くのプロジェクトが生み出されます。これらのプロジェクトを実装する上で、公共事業、民間事業と並びPPP(Public Private Partnership:民間連携)の取組がより重要になると思います。
こういった流域カーボンニュートラルは日本だけの問題ではありません。とりわけ新興国やグローバルサウスの国々にとって、気候変動で激しさを増す災害対策や安全で清潔な水の確保、そしてカーボンニュートラルは同時に解決しなければならない課題です。
日本は新興国やグローバルサウスの市場を捉え切れていませんが、治水対策やCO2削減に加えて、PPP(Public Private Partnership:官民連携)とODA(政府開発援助)を組み合わせた上下水道の整備や維持・管理、あるいは治水用ダムを活用した水力発電や用水を利用した小水力発電の整備などは、グローバルサウスにおけるインフラ開発で日本の有効な戦略になると思います。
このように、流域全体のカーボンニュートラルは大きな可能性を秘めています。そのパイロットプロジェクトとして、矢作川・豊川のカーボンニュートラルは是が非でも成功させようと思います。
【2024年9月20日掲載】
※このレポートは2024年9月6日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
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