REPORTレポート
LinkedInに掲載の記事「ロンドンのBST Hyde Parkで感じたこと」では、ロンドンのハイド・パークで開催された世界最大級の野外コンサート「BST Hyde Park」と、同じロンドンにある「O2アリーナ」を視察したという話を書きました。今回は、同じ欧州視察で訪れたドイツとフランスについてお話ししようと思います。
県が独自に進める海外との連携
愛知県は大村知事のリーダーシップの下、国に依存することなく海外の都市や自治体との連携を進めています。
例えば、以前の記事「MDアンダーソンがんセンターとTMCに見る最先端のがん治療体制」で触れたように、愛知県は米テキサス州と経済だけでなく、環境やスタートアップなどの分野でMOU(基本合意書)を締結。医療分野でも、連携強化を図っています。
フランス・パリ市とも、パリ市経済開発公社「Paris&Co」を通して、スタートアップ・エコシステムの形成支援を進めるとともに、スポーツ、文化・芸術、観光でも連携強化を進めようとしています。
同様に、デュッセルドルフやケルンなどの大都市を擁するドイツ・NWR州やリヨンのあるフランスのオーベルニュ・ローヌ・アルプ(AuRA)地域圏ともプロジェクトを始めようとしており、その議論を深めるために、愛知県の大村知事と州政府や地域政府のトップを訪問しました。
NRW州はドイツのGDPの約20%を占めるドイツ最大の経済州。伝統的に鉄鋼業が盛んな地域ですが、最近は化学産業やハイテク産業なども発展しており、欧州の中でも有数の経済圏として知られています。工業を軸としているという点で愛知県にとてもよく似ています。
愛知県に似ているのはAuRA地域圏も同じです。AuRA地域圏のGDPはフランスの地域圏の中で2番目、EU圏でも4番目という規模。リヨンを中心に、化学や製薬、繊維、機械・輸送機器、IT関連など多様な産業集積があります。
実際に、NRW州とは水素エネルギーやスタートアップ支援、「アートケルン」のような現代アートの国際的な見本市・展示会など文化・芸術面での連携を話し合いました。AuRA地域圏でテーマになったのも、水素を核とする再生可能エネルギーやスタートアップでの連携です。
連携の成果を求め始めた海外の都市や自治体
こういった自治体同士の連携は、かつては姉妹都市やMOU(基本合意書)を締結するだけで、その後の連携が具現化することは特にないということも少なくありませんでした。
でも、NRW州やAuRa地域圏のように、トップがリーダーシップを発揮している自治体は形だけの連携ではなく、具体的なプロジェクトを立ち上げ、成果を出すことを連携相手の自治体に強く求めるようになっています。
州政府や地域政府が連携の成果を求めるようになったのは、そこでの実績が一国の首相や大統領に直結し始めていることも関係していると感じています。
例えば、NRW州のブスト州首相は保守系政党・キリスト教民主同盟(CDU)の幹部で、次期首相候補と目されています。AuRA地域圏のトップであるボキエ議長にしても、マクロン大統領の次として期待されている人物です。
日本とは政治制度が異なるので一概には言えませんが、海外では州政府や地方政府のトップがプロジェクトを通して具体的な実績を出し、そこから首相や大統領など国のトップを目指すという流れがあります。そう考えると、グローバルな自治体同士の連携に成果を求めるのも当然です。
NRW州やAuRA地域圏との連携のテーマに水素を核とした再生可能エネルギーやスタートアップ支援が上がっているように、自治体や地域が抱えている社会課題は気候変動、エネルギー、食料、イノベーションとどこもも同じ。その課題を解決できるグローバルな地域同士が手を結び、官民の連携を通して実現するという重要性を強く感じています。
地方政府の現場で課題解決のために官僚機構を動かし、具体的なプロジェクトを通して成果を出した人がトップになる国と、当選回数が多い人間がトップになっていく日本の政治のあり方を見比べると、人口減少、高齢化社会に突入する日本は将来的に大きく引き離され、国際的な地位が低下していくのではないかという危機感を持たざるを得ません。
※【掲載の写真について】ケルンの街並み(Photo: Eckhard Henkel / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0 DE)
【2024年4月26日掲載】
※このレポートは2023年9月1日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
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