REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
グローバル化が必要なチケット販売
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東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして使用された、国立競技場の運営を担当する民間事業者の公募が始まっています。
国立競技場の運営で収益を上げるには多額の追加投資が必要になります。
ただ、スポーツやイベント、エンターテインメントを通してアリーナの収益性を高めるのは世界中のアリーナで行われていること。東京というマーケットや国立競技場の立地を考えれば、十分に可能性はあると思います。
外国人が買えない日本のチケット
もっとも、そのためには解決しなければならない課題も少なくありません。前回は国立競技場の稼ぐ施設としての機能不足を指摘しましたが、今回は日本のイベント事業の課題でもあるチケット販売について触れようと思います。
社会問題になっているジャニーズを巡っては、テレビ局とプロダクションの関係に象徴される古くからの業界構造が問題視されています。それと同じように、アリーナ施設とプロモーターの間にも、そうした古い構造が存在していると感じています。
海外にお住まいの方はご存じだと思いますが、日本国内で開催されるコンサートのチケットを海外から買おうとしても、ほとんどの場合、正規のルートでは買うことができません。海外のファンが日本のコンサートチケットを買う仕組みが存在せず、そもそも想定外だったのです。
日本のチケット販売サイトでチケットを買うためには、日本の携帯番号とクレジットカードがないとアカウントを作ることができません。しかも、販売サイトの大半は日本語の説明のみ。日本人であれば、知人に頼んでチケットを買うことができるかもしれませんが、外国人が買うことは難しいでしょう。
それに対して、欧米の場合は名前やメールアドレス、居住国、郵便番号を入力すれば、チケット販売サイトのアカウントをつくることができます。
携帯番号の入力は、日本の国番号「81」を入れればそれで終わり。支払いも、クレジットカードで問題ありません。
英語を読まなければならないという手間はありますが、それさえ乗り越えれば、誰でも世界中のチケットを入手することができます。
また、外国人がチケットを買うことができないという問題の他に、チケットの販売価格を大きく動かせないという問題があります。
日本で普及しないダイナミックプライシング
近年、Jリーグやプロ野球などのスポーツに海外で普及しているダイナミックプライシングを取り入れる事例が出てきました。ダイナミックプライシングとは、ビッグデータ分析を基にイベントごとの需要を予測し、チケット価格を変動させる顧客ニーズに応じた販売の仕組みです。
例えば、先日、視察で訪れた世界最大級の野外コンサート「BST Hyde Park」で行われたブルース・スプリングスティーンのライブの場合、平均チケット代金は3万円と聞いています。日本国内のコンサートに比べてだいぶ高額ですが、これはダイナミックプライシングによる価格設定です。
また、海外のコンサートやイベントには、必ずと言っていいほどVIP席があります。飲食が可能な高額シートを販売し、ゆっくりと家族で観戦したり、友人や取引先をもてなしたりという楽しみ方が一般的になっているんですね。
当然、VIP席ですからチケット料金は高額ですが、VIP席を求める人はたくさんおり、アリーナ収入の中で重要な位置を占めています。こういった高額シートの価格設定も、ダイナミックプライシングによって決められます。
この仕組みは一部のコンサートで実験的に導入されていますが、日本ではなかなか普及していないのが現状です。自治体の体育館や公会堂を安く借り上げてコンサートを行うというこれまでのやり方が深く定着しているからかもしれません。
価格設定だけでなく、マーケティング面でも国内と海外には大きな開きがあります。
私自身、ブルース・スプリングスティーンの観戦チケットを購入するため販売用サイトにアカウントを作りましたが、私の好みや場所を反映したお薦めのコンサート情報が定期的に送られてきます。先日は、シンガポールで開催されるテイラー・スウィフトの案内が届きました。
こういうレコメンデーションができるのも、グローバルでチケットを購入できるからです。
地方の活性化で効果的なアリーナPPP
愛知アリーナや秩父宮ラグビー場のように、今後はPPP(Public Private Partnership:官民連携)方式によって、日本でも世界水準の設備を有したアリーナが完成します。
そのアリーナに世界最高レベルのプロスポーツやアーティストを迎えるために、ハード面のみならず、ソフト面でもグローバル基準を満たすいい機会だと思います。
そのアリーナに世界最高レベルのプロスポーツやアーティストを迎えるために、ハード面のみならず、ソフト面でもグローバル基準を満たすいい機会だと思います。
こういったハードとソフトを併せ持ったアリーナは、地方の活性化という面でも効果的です。
スポーツ観戦やコンサートのために世界中から観光客が来日すれば、地方の自然や食を楽しむ新たな観光ビジネスのエコシステムも形成されるはず。日本が観光立国を実現するうえで、スポーツや文化芸術の分野でアジアのハブを目指すことは重要です。
国立競技場のコンセッションを通して、世界基準のハードとソフトを整える。それができれば、国立競技場の成功のみならず、アリーナによる地方の活性化も実現できると思います。
【2024年3月8日掲載】
※このレポートは2023年9月24日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
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