REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶

地方経済の起爆剤になり得る「インフラPPPで30兆円」の目標設定

政府は2022年5月31日、岸田首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」の実行計画を発表しました。人への投資、科学技術、スタートアップ、脱炭素・デジタル化の4本柱から構成されており、首相が重視していた所得の再分配よりも、分配の原資となる成長を優先したものになっているように感じます。

この実行計画の中に、私がかねてより主張している民間資金を活用した公共・社会インフラ整備が盛り込まれました。これまでにない強化策です。

実行計画では、官民が連携して公共サービスを提供する仕組み、すなわちPPP(Public Private Partnership:官民連携)やPFI(民間資金を活用した社会資本整備)の事業目標が設定されました。それも、2022年度から10年間で30兆円と莫大な規模です。

特に、初めの5年間を重点実行期間と位置付けるなど、PPPを首相肝いりの「新しい資本主義」の柱の一つに位置付けていることが見て取れます。

目標達成に不可欠な民間提案の採用
 
政府の発表資料を見ると、30兆円という事業規模目標では、スタジアムやアリーナ、文化・社会教育施設、公園を対象にしています。その手法も、PPPの一手法である「BT+コンセッション」で整備する方針のようです。

「BT」とは、「Build」「Transfer」の略で、民間コンソーシアム(SPC)が建物を建て、所有権を官に移した後、SPCが20年、30年という一定期間の運営権を取得し、運営や維持管理に関わる手法のことです。建てた後に所有権を移して、コンセッションの形で運営権を設定するので、「BT+コンセッション」と呼ばれるようになりました。

この手法は、SPCが事業計画や建築工事の発注、完成後の運営にコミットするため、事業コストの削減や収益増が見込めます。私が政策顧問を務める愛知県の愛知県アリーナ(新体育館)は、BT+コンセッションで整備された日本初のプロジェクトです。

また、実行計画には、PPPによる公共・社会インフラ整備を推し進めるため、内閣府が中心になって自治体向けのガイドライン整備とともに、民間提案のスキーム導入も謳われています。とりわけ民間提案は、PPPによる社会資本整備を進める上で、極めて重要なポイントです。

海外のインフラPPPを見ると、行政がPPPに向いたプロジェクトを切り出して入札にかけるケースだけでなく、民間の事業者が「このインフラをPPPとして事業化したい」と政府に提案するケースが少なくありません。「アンソリシテッド・プロポーザル(民間提案)」と呼ばれる形態です。

新規のインフラ整備を提案する場合もあれば、既存インフラの維持管理や改修込みで提案する場合などさまざまですが、相手国政府からすれば、民間の資金で維持管理や修繕ができるというメリットがあります。

インデックスストラテジーも、海外の有料道路コンセッションでは、事業化の見込めそうな区間の事業化を相手国政府に提案しています。その後は、入札になりますが、提案者は入札で加点されるなど、「言い出しっぺ」として優遇が得られます。

正直なところ、PPPの経験がなく、仕組みにも精通していない地方自治体にプロジェクトの組成や推進を求めることは酷な面があります。海外と同様に民間の提案を活かす仕組みを導入しなければ、30兆円という事業規模の目標達成は不可能でしょう。そのためには、PPPを組成する企業に対する啓蒙や教育も必要になります。
 
PPPの目的はハコの整備にあらず
 
もう一つ、重要だと考えているのは、ただ「ハコ」を作るのではなく、地域経済を活性化させるような「事業」になるプロジェクトを評価する仕組みを組み込むことです。

PFIの事業主体であるSPCは建設会社や維持管理を手がける企業が名を連ねる場合が多く、その後の運営よりも、建設や維持管理の回収に目が向いています。そのため、施設の運営コストを下げたり、収入をあげるための工夫をしたりして、経営を改善させる機能とインセンティブが働いていません。

30年なら30年という運営期間のトータルコストで見ると、自治体が公共事業として作るよりも割高になるケースもありますが、自治体は30年分割でSPCに利用料などの形でコストを支払う形になり、当初の建設コストが大きく引き下げられるため、ほとんど気にしません。

今回、同じことが起きれば、ただハコを整備するだけで終わり、地方創生や地域活性化にはつながらないでしょう。あくまでも、PPPは施設整備後、適切に経営し、運営収入を伸ばすための手段であるべきです。

そう考えるのは、PPPによる公共・社会インフラ整備が地域創生や地域活性化の切り札になるという確信があるからです。
 
地域が地元自治体に提案する時代に
 
これまで、地域のアリーナ(要は公共体育館)は地域住民の利用が中心でした。ただ、スポーツやお笑いライブなど、イベントには底堅いニーズがあります。特に、プロバスケットリーグ(Bリーグ)などのプロスポーツが全国で勃興している状況を鑑みれば、スポーツは地方活性化のための優れたコンテンツです。

こういったプロリーグはスタジアムの確保を参加要件にしているため、スタジアムの存在がチームの存続に不可欠です。チームとしても、スタジアムを借りて利用料という形でキャッシュアウトを続けるよりも、自前か、それに近い形でスタジアムを持ち、他のイベント誘致、食べ物や飲み物、グッズ販売などのスタジアム収入を得る方が経営は安定します。

地域のスポーツクラブが施設を妥当なコストで整備し、イベント運営を手がければ、収入と観客数が増えることが期待できるため、スポーツビジネスとして十分に成立すると思います。

【参考記事】:「アリーナ建設」を通した地方創生 

その際に、東京など大都市の企業ではなく、地域の金融機関や建設会社、プロスポーツクラブ、プロモーターなどがコンソーシアムを組み、アリーナの建設から運営までを自治体に提案する形が理想だと考えています。地域のアリーナやプロスポーツは地域にとって大切な資源。それを、地域の経済界がPPPを通して支えるのです。民間提案のスキームは、こういうふうに活用するべきだと考えています。

今後10年で、地域のプレイヤーがうまくPPPを活用すれば、この国は大きく変わると思います。そのためには、建設会社がハコを作って終わりではなく、いかにうまくそのハコを運用するかという視点に切り変える必要があります。

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